2017年6月14日水曜日

ロイターは利益剰余金と現金を混同した誤った記事を放置するな

久しぶりにすごい記事をみた。

権威ある金融メディアであるロイターが「企業の利益剰余金390兆円、経済の停滞要因に」という記事がアップしているのだが、思わずだれかに喋りたくなるレベルで基本的な認識が間違っている。

コラム:企業の利益剰余金390兆円、経済の停滞要因に

引用すると

「全産業ベース(銀行、保険業は除く)の利益剰余金は390兆3900億円と過去最高を記録。」
「わかりやすく言えば、企業が利益を出しているにもかかわらず、設備投資を控え、賃上げにも積極的に動かなかった結果、現金が積み上がってしまったということだ。」

この記事を書いた人は利益剰余金という現金があって、それが企業部門に滞留していると思っているらしい。利益剰余金の増加と、現金の増加は別であることは簿記の初歩を学べばすぐ分かるレベルの話だ。
まさか天下の金融メディアであるロイターはそのような間違いは犯さないはず。
ロイターのことだから、あえての比喩表現かなとも思っていたが、記事の後半で

「せっかく政府・日銀が大車輪で財政・金融の効果を出そうとしても、企業部門に溜まった約400兆円のマネーが、日本経済全体に行き渡らないため、「十全」の効果を発揮できずにいると言える。」

と書いてある。

390兆円の利益剰余金を「約400兆円のマネー」と表現してあり、
やはり、企業部門に利益剰余金というキャッシュがあると思っているらしい。

当たり前の話ですが、そんなことはありません。

バランスシートの右側にある利益剰余金が増えた時に、バランスシートに左側でキャッシュになっているかもしれないが、在庫や固定資産になっているかもしれない。

利益剰余金として積みあがった資本そのものが、経済を滞留させているわけではない。もし、利益剰余金が札束として会社の金庫に入ったままになっているとすれば、経済の滞留の原因なのは間違いないが、そんな会社は存在しない。

バランスシートの右側が増えた時に左側で何になっているか、が大事なのであって、右側が増えることそのものを指して、経済が停滞しているというのはムリがある。というか間違っている。

日本共産党なんかはよく「企業部門に利益剰余金があるならキャッシュとして吐き出せ!」と主張しているが、それはそれで一つの価値観だなと思う。
一方のロイターの記事は価値観の問題以前に、事実認識が間違っている。
それも金融分野に特化したメディアが、である。
「利益剰余金という現金が企業にたまっているのが問題」という誤ったファクトに基づくトンチンカンな主張は、ロイターそのものの価値を下げるので、とっとと削除した方がよい。

よく見ると、田巻一彦という人の署名記事である。
この人の過去記事を調べてみると、だいぶリベラルな記事が多い様子。
企業部門から個人への分配を増やすこと自体は議論の価値があると思うが、権威ある場において、誤った認識に基づき主張することは、誰にためにもならない。


もっとも、このコラムの文末にはロイターの免責として
「ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。」
と書いてある。

しかし、DeNAのキュレーションが問題となったばかりである。
金融情報を発信するメディアとして、ロイターは自分自身の立場を自覚するべきだと思う。

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