引継ぎって、あまり分析の対象とされてないけど、実は重要だと思う。
トップマネジメントレベルでは「事業承継」がかなり研究されて、
色々な方法論が提唱されているわけだけど、
現場レベルで毎年発生している「引継ぎ」については、科学的な分析を
目にすることは少ない。
少なくとも私が目にしたことはない。
そんな、これまで注目されてこなかったけど、実は重要そうな
現場における「引継ぎ」を科学的に分析し、方法論を提案しているのが
本書「生産性を三倍に跳ね上げる引継ぎ」。
「引継ぎ」に注目したのは、かなり鋭い視点だ。
大企業はもとより中小企業でも毎年発生する「引継ぎ」は
かなり現場任せになっていることが多く、やり方もバラバラ。
なぜそんな属人的になっているかといえば、定まった
フレームワークがないからでしょう。
本書が説く引継ぎの方法論は、基本的には事業承継のそれの相似形だ。
引継ぎも事業承継と同じく、
業務の変化・イノベーションのチャンスだから、攻めの姿勢が大事。
業務の目的を改めて設定し、
変えてはならないことを把握し(本書のケースでは顧客との言外も含めた約束事)、
変えられることは自分なりに仕事の方法や組織をかえていく。
それに伴うコミュニケーションの術として、
見える化すべきところは見える化し伝え、
モヤっとしたままの方がよい場合はモヤっとさせたまま伝える
という見極めが必要だと説く。
面白かったのは、前任者に現状分析やあるべき姿を聞くことに対する
「別れた恋人が電話をかけてきて、自分の将来設計について語りだしたらどう思う?」
という例え。もうその仕事から離れようとしている前任者から
その仕事の将来の展開を聞き出すのは、効果が期待できない。
むしろ過去の話、つまり武勇伝ならよろこんで語るはずだから、
そこから意味を見出していく方がよいだろうという話。
たしかに、自分も武勇伝話すのが好きだからね。
人の記憶は、辞書のような「意味記憶」と、日記のような「自伝的記憶(エピソード記憶/回想的記憶)」の二種類があり、話す側にとっても
想起が容易な後者の話の方が聞き出しやすいはずだ、と指摘しています。
この「引継ぎ」という分野、もっと科学的な研究が進んでもよいはず、
と思わせるだけの気づきを与える良質な一冊。
若手ビジネスマンから管理職まで、一読の価値があると思う。