2020年2月13日木曜日

「生産性を3倍に跳ね上げる引継ぎ」書評

引継ぎって、あまり分析の対象とされてないけど、実は重要だと思う。
トップマネジメントレベルでは「事業承継」がかなり研究されて、
色々な方法論が提唱されているわけだけど、
現場レベルで毎年発生している「引継ぎ」については、科学的な分析を
目にすることは少ない。
少なくとも私が目にしたことはない。

そんな、これまで注目されてこなかったけど、実は重要そうな
現場における「引継ぎ」を科学的に分析し、方法論を提案しているのが
本書「生産性を三倍に跳ね上げる引継ぎ」。



「引継ぎ」に注目したのは、かなり鋭い視点だ。
大企業はもとより中小企業でも毎年発生する「引継ぎ」は
かなり現場任せになっていることが多く、やり方もバラバラ。
なぜそんな属人的になっているかといえば、定まった
フレームワークがないからでしょう。

本書が説く引継ぎの方法論は、基本的には事業承継のそれの相似形だ。
引継ぎも事業承継と同じく、
業務の変化・イノベーションのチャンスだから、攻めの姿勢が大事。
業務の目的を改めて設定し、
変えてはならないことを把握し(本書のケースでは顧客との言外も含めた約束事)、
変えられることは自分なりに仕事の方法や組織をかえていく。
それに伴うコミュニケーションの術として、
見える化すべきところは見える化し伝え、
モヤっとしたままの方がよい場合はモヤっとさせたまま伝える
という見極めが必要だと説く。

面白かったのは、前任者に現状分析やあるべき姿を聞くことに対する
「別れた恋人が電話をかけてきて、自分の将来設計について語りだしたらどう思う?」
という例え。もうその仕事から離れようとしている前任者から
その仕事の将来の展開を聞き出すのは、効果が期待できない。
むしろ過去の話、つまり武勇伝ならよろこんで語るはずだから、
そこから意味を見出していく方がよいだろうという話。
たしかに、自分も武勇伝話すのが好きだからね。
人の記憶は、辞書のような「意味記憶」と、日記のような「自伝的記憶(エピソード記憶/回想的記憶)」の二種類があり、話す側にとっても
想起が容易な後者の話の方が聞き出しやすいはずだ、と指摘しています。


この「引継ぎ」という分野、もっと科学的な研究が進んでもよいはず、
と思わせるだけの気づきを与える良質な一冊。
若手ビジネスマンから管理職まで、一読の価値があると思う。

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